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貸切バス 東京を採用

長く勤めていた大手ホテルから、二○○○年に転職した。
親に代わって育ててくれた郷里の祖母の体が弱ってきた。 いずれは戻って、祖母の面倒をみたいと思った。

地方は仕事が少ないが、全国チェーンでノウハウを得れば、地元に店を出させてもらえるかもしれない。 そんな夢を抱いたからだ。
同じ経営者によるフランチャイズ店は都内に二店舗あった。 ○三年に、その一つの店長になった。
店長なのに、店員の採用は経営者の許可が必要だった。 会計報告も毎夜、経営者にファックスやメールで送って指示を受ける。
二〜五人のパートやアルバイトに指示し、自身も接客、調理、食材の仕入れ、会計をこなす。 ○五年からは弁当の宅配サービスも引き受けさせられた。
朝は九時半に店に出て午前二時半まで働く。 代わりの働き手がいないため、店長になって三年間休みはゼロだった。
労働時間は月五百時間に達したが「管理職だから」と残業代はない。 一万円の店長手当を入れても月収は約三十三万円、時給換算すると六百円台で、○六年当時の東京都の最低賃金七百十九円を下回っていた。

「オレは機械じゃない」と思った。 過労と睡眠不足で不安が強まり、不眠症とうつ病になった。
経営者は四十代の男性で、気に入らないと店の裏で頭突きをしたり、カウンターの陰で足をけったりした。 怖くて逆らえなかった。
「管理職」のラベルを貼ってしまえば、非正規社員以上に使い勝手のいい正社員のできあがり。 労働基準法の拡大解釈は、あちこちで便利に利用されている。
四十代の管理職の男性が働いている、関西にある中堅のサービス関係の会社では、入社四、五年で全員が「責任者」や「リーダー」になる。 肩書きがつくと、年俸制になり残業代が出ない賃金体系だ。
肩書きがついても、役員以外は役職給もない。 それなのに労働時間は長い。
だから、非管理職のほうが時間あたりの賃金が高くなる。 それで、すぐに肩書きをつける。
「人件費減らしとわかっているが、社長はワンマンで労組もない。 みんな黙って働いています」。
二○○六年四月、祖母が脳梗塞で倒れた。 看病のため休みをとったら、「やる気がない」と店員に降格された。
祖母の葬儀で帰郷すると経営者は追いかけてきて「二、三日で戻れ」と胸ぐらをつかんで脅した。 「もう我慢できない」と退職、訴訟に踏み切った。
日本に参入してくる新興の外資系企業でも、こうした人件費節約法は、より露骨に活用されていた。 都内の老舗の外資系企業で管理職だったNyさん(仮名:三十九)は○五年、新興の外資系IT企業のマネジャーに転職した。

「年収は二、三割アップ。 会社が大きくなれば部門を率いる地位に」と誘われ、夢の転職が果たせると思った。
だが、入社してみると、社員は全員マネジャーなどの肩書き付きだった。 厳しい納期でプロジェクトを任され、午前一時、二時まで働いたが、「管理職だから」と残業代は出ない。
終電を気にせず働けるようにと、遠くに住む社員は会社が引っ越し代を負担して、職場の近くに転居させられた。 取引先の日本企業に出向いたとき、「組織図をください」と言われた。
組織図を見せると、相手は、「この図で権限を持っているのはだれですか?」と聞いた。 外資系は役職が多すぎて権限の所在がはっきりしないことが知れわたっていて、本当に決定権のあるポストはどれかを確かめてから商談をしようということだとわかった。
解雇も頻繁で、ある日突然、同僚が消える。 「管理職に」と誘われれば、だれでも悪い気はしない。
すぐ空きの出る人員を補充するために、管理職の肩書きは最高のエサだ。 加えて、不満があっても、「管理職が労働争議なんてみっともない」と見栄で泣き寝入りする人が多いから、解雇も簡単だ。

「管理職」の肩書きは、身軽に進出・撤退を繰り返すIT企業にとっては、「打出の小槌」のようになんでもかなえてくれる道具なのだと思った。 会社との関係がこじれ、Nyさんも○六年暮れに解雇された。
「東京管理職Yu」をたずね、そこで「管理職の肩書きがつけば残業代はいらない」というのは誤解だと知った。 その後、○八年には、NMdのThさんの訴訟について東京地裁が、「店長は管理監督者にあたらない」として、Thさん勝訴の判決を出した。
そんな中でNyさんの耳に入ってきたのは、一定以上の年収の働き手を労働時間規制から外して残業代を払わない「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度の導入が検討されているという情報だった。 Nyさんが耳にした「ホワイトカラー・エグゼンプション」は米国の制度だ。
「ホワイトカラーは肉体労働者と違って知的労働のため、その成果は何時間働いたかで測れるものではない」として、専門職やビジネスマン、店長などを労働時間規制の適用除外にする規定を設けた。 「管理職の肩書きだけでは残業代は節約できないことが知られ始め、別の打出の小槌が必要になったのかも」と、Nyさんは苦笑いした。
これが「ホワイトカラー(事務職)・エグゼンプションだ。 だが、ガソリンスタンドのスタッフまでが除外職種に含まれるなど、そのあいまいさは米国でも問題になっている。
○四年、この制度を日本にも導入しようとKz純一郎内閣が決め、さらに経済界が働きかけを強めたことから、「日本型ホワイトカラー・エグゼンプション」は大きな論議になっていった。 二○○五年六月、NkRは、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求める提言を発表した。
この中で「(肉体労働ではない)ホワイトカラーは「考えること」が一つの重要な仕事」と述べ、だから「職場にいる時間だけ仕事をしているわけではない」として、一定の業務に就いている年収四百万円以上の働き手を労働時間規制の適用から除くことを提案した。 先に述べたように、「管理監督者」に残業代を適用しないのは、ほぼ経営と一体で、自力で時間管理ができる立場の働き手だからだ。
だが、年収四百万円といえば、会社に入社して数年のチームリーダーから上はほぼあてはまってしまう。 提言では、この制度は経済のグローバル化や業務の二十四時間化に対応したものとされていた。
しかしこれでは正社員のほとんどに、残業代なしで好きなだけ深夜労働をさせることができるようになると、労働界に衝撃が広がった。 これが通れば、管理職の肩書きさえつける必要がなくなる。

働き手の健康と生活の両立のため、日本の労働基準法では、一日八時間、週四十時間労働が限度である。 二○○三年以降、Tf、Ty電力、Ny公社と、労働基準監督署から残業代の未払いで指導を受ける大手企業が続出していた。
指導後に払われた賃金の合計額は、○三年度に約二百三十八億円、○四年度は二百二十六億円にのぼった。 労基署の指導がなければ、この賃金に原則とされている。
だが、日本は、一日八時間労働を規定しているILO一号条約を批准していない。 労基法三十六条で、労使が協定を結べばかなり無制限に一日の労働時間を延長できると規定されていることもあり、批准の要件を満たしていないからだと厚生労働省は言う。
終身雇用を維持するために、忙しい時期には正社員が長時間残業して一定のメンバーだけで会社をやっていけるようにとの目的からこの条文ができたといわれ、この協定は労働用語で「三六協定」と呼ばれる。

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